子宮頸部がん検診で要精査とされたら
現在子宮頸部がん検診には、細胞診が用いられておりますが、子宮頸がんの発症の原因として、性交渉によって感染するウィルスであるヒトパピローマウイルス(Human Papilloma virus)の持続感染が95%以上を占めることが明らかになってきたために、最近ではヒトパピローマウイルス(以下HPVとする)感染を指標とした検査が注目されております。
子宮頸部がんは、初期にはほとんど症状(全くといっていいほど)がなく、自分でお気づきになる事はございません。それだけにおりものの異常や不正出血などに気づかれたときには子宮がんが進行していることもあります。→子宮頸がん検診でがんになる前に発見できます!!
子宮頸部は妊娠・出産に重要な所ですが、子宮体部へのバクテリアの侵入を防ぎ、様々なサイトカインを放出することで免疫的にバクテリアを攻撃する場になっており、また、排卵期には精子が子宮体部に通過しやすいように頸管粘液を分泌し、妊娠成立に貢献するという機能を持っています。
子宮頸がんは正常な状態からいきなりがんになるわけではありません!!前がん病態の過程を経てがんに進行します。いくつかの要因(因子)が重なって発がんするのではないかと考えられております。
発がんの原因
- HPVの持続感染
- HPVを排除しにくい体質(HLA遺伝子)
- 喫煙
- その他の環境因子(クラミジアなどバクテリアによる環境変化)
などがあると考えられています。
子宮頸がんの罹患年齢
子宮頸がんの罹患数は約10,900人で死亡数は約2,900人となっています。
子宮頸がんの好発年齢は30歳から60歳台にかけてで、40歳台に発症のピークがあり、25~34歳の女性における最多の悪性腫瘍で、35~54歳でも乳がんに次いで多いがんです。
子宮頸がん検診が開始された当初は、CINの段階での早期発見により罹患率・死亡率ともに減少傾向にありましたが、最近では再び増加傾向に転じています。とくに若年者での検診受診率の低下が目立っており、罹患率、死亡率ともに若年層で増加傾向にあります。
この原因としては、20歳台の受診率が10%程度と低いことや、我が国において、2013年から開始された子宮頸がんワクチンが有害事象により接種が差し控えられ、以後中断されたままとなっていることなどが考えられます。
HPV(ヒトパピローマウイルス)
HPV(ヒトパピローマウイルス)はヒトのみに感染し、子宮がんの原因のみと思われがちですが(男女にかかわらず)咽頭がん、喉頭がん、膣がん、陰茎がん、肛門がんなどの原因となっております。
主にHPVは性交渉感染ですので性交渉の経験のある人なら誰でも感染する可能性があります。HPVは尖圭コンジローマや咽頭の声帯付近にイボをつくる再発性呼吸器乳頭腫症などの良性疾患の原因にもなります。
しかしながら、HPVは多くの女性(約80%)が一生に一度は感染するごくありふれた感染症で、HPVに感染してもほとんどは一過性感染で約90%は自己免疫力で自然に治りますので、HPV陽性だったからといって、やみくもに恐れる必要はありません。このようにHPVは健康な女性にも存在しており、HPV陽性であっても子宮頸がん細胞診で異常がなければ特に治療の必要はありません。HPV感染のうち、約10%が持続感染となり、HPVの感染が5~10年続くと前癌病変に状態が進行します。異形成は軽度、中程度、高度の3段階を経て癌化していきますが、そのうちCIN1(軽度異形成)では、それ以上の病変に進展する率は15%程度にすぎず、大部分が自然消退します。さらにCIN2(中程度異形成)になってもさらなる進展は25%弱にすぎません。
子宮頸がん検診の受診者全体の中で精密検査が必要な人の割合は約1%(100人に1人)と報告されておりますが、そのうち子宮頸がんの発見率は0.06%で、精密検査が必要と言われた人の100人に6人程度の割合で子宮頸がんが発見されることになります。したがって、要精密検査の結果報告書を受け取っても、必ずしもがんと診断されたわけではありませんので、過度な心配はせずにまずはすみやかに受診して下さい。
子宮頸がんの各分類
正常の状態から子宮頸がんになるまでの前がん病変は異形成に相当し
cervical intraepithelial neoplasia(CIN)と呼ばれ
- 軽度をCIN1
- 中等度をCIN2
- 高度の異形成から0期までのがんをCIN3と3段階に分類しています。
このうち、CIN1(軽度異形成)は80%以上は自然に治癒しますが、約10%がCIN3以上の病変に進行すると言われています。そのため、コルポスコピー下生検と6か月後に細胞診で経過観察とします。
CIN2(中程度異形成)は、病変に進展する率は20%程度ですので、原則的にはコルポスコピー下生検を行い、3か月後に細胞診で経過観察経過観察ですが、自然消滅しない場合には約18%に上皮内癌や微小浸潤癌が見られるとの報告もあるため、必要に応じて円錐切除術等が必要になる場合もあります。
CIN3(高度異形成・上皮内癌)はすでに癌化がはじまっていて、30%以上が数年で子宮頸がんに進行すると考えられています。このようにCIN3以上は前癌病変であるので、治療適応となることが多いです。逆に言えば、CIN3の段階で治療をすることにより、子宮頸がんへの進行を防いで完治をさせることが可能です。
治療は患者さんの年齢や挙児の希望により円錐切除術 または、(円錐切除不能例や妊孕性温存を望まない場合には)子宮全摘などの開腹術を行うこともあります。
ASC-US 意義不明な異型扁平上皮細胞
ASC-USは陰性と異形成(CIN1/2/3)との間となるグレーゾーンで、「軽度扁平上皮内病変疑い」とされます。子宮がん検診受診者のうちのおよそ5%未満がASC-USに該当し、要精密検査となりますが、そのうち治療の対象となるのはたった3%程度とされています。ASC-USの場合には、HPVハイリスク検査を行い、HPV感染の有無を調べます。HPVが陰性ならば1年後検診とし、HPVが陽性ならば、コルポスコピー下生検を行います。ASC-USとなった人の約50%にHPVハイリスク型が、さらに10~20%にCIN2/3が検出されると考えられています。
子宮頸がん検査
(1)従来法
子宮頸部の表面の細胞をブラシやヘラで軽くこすり短時間でできる検査であり、痛みはほとんど認めません。
(2)LBC(Liquid Based Cytology液状細胞診)
採取された細胞を直接標本ガラスに塗抹する従来法では採取する医師や採取機器によってまちまちな標本になり細胞数が少なくなったり固定が不良なもの、出血、炎症のために判定しずらい標本が生まれ見落としの原因になることがありましたが、LBCは
- 採取した細胞を100%回収
- HPV併用検診によって悪性細胞の発見率は100%に近くなった
- 受診者様への負担が従来と変わらず一度の採取で細胞診とHPVの判定が可能
- 従来法と比較して病変の検出率が格段に向上するため、検査精度が高まる
というメリットがあり、当院でも横浜市のがん検診や自費検診において取り入れております。
◆LBC(Liquid Based Cytology液状細胞診)について詳しくはこちらのぺージをご覧ください。
細胞診の結果は、ベゼスダ分類で表記をします。
◎ベゼスダシステムは米国を中心に世界中で採用されている子宮頸部癌スクリーニングの報告様式であり、標本の評価、推定診断を目指した記述用語等の先進的な考え方は細胞診断学全領域にも影響を及ぼしています。日本ではベゼスダシステム200/準拠子宮頸部細胞診報告様式が運用されております。
細胞 | 検査結果 | 略語 | 推定される病理診断 | 最低限必要な検査・検診 |
扁平上皮系{子宮頸がん細胞の約8割をしめる } | 陰性 (正常) |
NILM |
非腫瘍性所見 |
HPVが陰性ならば2~3年後検診とし、HPV陽性ならば1年後検診とする |
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意義不明な異型扁平上皮細胞 | ASC-US |
軽度扁平上皮内病変疑い |
HPVが陰性ならば1年後検診とし、 HPVが陽性ならば、コルポスコピー下生検(約50%にHPVハイリスク型、さらに10~20%にCIN2/3が検出される。治療対象となるのは全体の約3%程度。) |
|
軽度扁平上皮内病変 | LISL |
HPV感染 |
コルポスコピー下生検 |
|
HSILを除外できない異型扁平上皮細胞 | ASC-H |
高度病変疑い |
コルポスコピー下生検 |
|
高度扁平上皮内病変 | HSIL |
CIN2(中程度異形成) |
コルポスコピー下生検 3か月後に細胞診で経過観察 必要に応じて円錐切除術 (病変に進展する率は20%程度だが、約18%に上皮内癌や微小浸潤癌が見られるとの報告もある。)浸潤癌が疑われ確定診断が困難な場合や2年以上継続する場合に、円錐切除の適応となる。 |
|
CIN3(高度異形成) |
(CIN3以上は前癌病変で治療適応となることが多い。) コルポスコピー下生検、 円錐切除術 (円錐切除不能例や妊孕性温存を望まない場合)子宮全摘など |
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CIN3(上皮内癌) |
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扁平上皮癌 | SCC |
扁平上皮癌 |
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腺系 | 異形腺細胞 | AGC |
腺異形または 腺癌疑い |
コルポスコピー下生検 |
上皮内腺癌 | AIS |
上皮内腺癌 |
コルポスコピー下生検 |
|
腺癌 | Adeno-carcinoma |
腺癌 |
コルポスコピー下生検、円錐切除術 |
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その他 | その他の悪性腫瘍 | Other malignant neoplasm |
その他の悪性腫瘍 |
コルポスコピー下生検 |
◎ベゼスダシステムに基づく細胞診の分類として
(扁平上皮細胞)
◎ASU-US(atypical squamous cells of undetermined significance)
→意義不明な異型扁平上皮細胞
→軽度病変疑い
◎LISL(low grade squamous intraepithelial lesion)
→軽度扁平上皮内病変
◎ASC-H(atypical squamous cells cannot exclude HSIL)
→高度病変疑い
◎HSIL(High grade squamousintraepithelial lesion)
→高度扁平上皮内病変
◎SCC(squamous cell carcinoma)(腺細胞)
→扁平上皮癌
◎AGC(atypical glandular cells)
→異型腺細胞
◎AIS(adenocarcinoma in situ)
→上皮内腺癌
◎Adenocarcinoma
→腺癌
◎Other malignant neoplasm
→その他の悪性腫瘍
子宮頸部上皮内病変の取り扱いとして
◎NILM→HPVが陰性ならば2~3年後検診とし、HPV陽性ならば1年後検診とする
◎ASC-US→HPVが陰性ならば1年後検診とする
HPVが陽性ならば、コルポスコピー下生検
◎LSIL→コルポスコピー下生検
6か月後に細胞診
◎ASC-H→コルポスコピー
◎HSIL→コルポスコピー下生検、必要に応じて円錐切除術
◎SCC→コルポスコピー下生検、円錐切除術、必要に応じて手術
◎AGC→コルポスコピー下生検
◎AIS
Adeno-carcinoma
→コルポスコピー下生検、円錐切除術、必要に応じて手術