性感染症(性病)とは
性感染症(性病)とは膣性交またはこれに類似した性行為(性器-口腔 性器-直腸)の皮膚または粘液の接触により感染する疾患の総称です。
性感染症は症状がないものを含めた感染している状態を指しますので、近年STIという呼び方に変わりつつあります。
受診のきっかけとなる症状ですが、男女には自覚症状に強さの違いがあります。
性感染症では無症候感染のことも多いのですが、症状がある場合は男性のほうが女性よりも自覚症状が強いことが多いです。そのため男性のほうが病院に受診する機会が多く、女性は受診の機会が少なく、このため女性は炎症が進行しやすく感染を増大させやすいのです。
日ごろよりおりものや下腹痛などがある場合は早めに病院へ受診していただくことも重要ですが、日常的なSTDの予防のためには信頼できる人以外の方と性交渉をもたないことです。また、コンドームは避妊具として重要ですが何よりも性感染症の感染予防に対して重要です。感染予防のためにはコンドームを粘膜接触の始めから(オーラルセックスも含め)最後までしっかりと着用しなければいけません。
たとえば、1回のコンドームなしの性交渉で淋病は50%、梅毒は20~30%、エイズ(HIV)は0.1~1%が感染するとされています。
また、淋病やクラミジアは性交渉の低年齢化の影響もあり、10歳前半から増加し20歳前半まで最も多く報告されています。
※さらに、性感染症の治療はご自身とパートナーの検査治療も不可欠です。ご自身の治療が完了してもパートナーが未治療であれば再度感染します。(ピンポン感染)
性器クラミジア感染症
クラミジアトラコマティス(Chlamydia Trachomatis)を病原体とする性感染症(性病)です。
症状が非常に軽いため自覚症状をほとんど認めないことが多く放置されやすく女性の感染者が増加しています。感染が長期化すると不妊や子宮外妊娠の原因となります。
近年若年者を中心に感染者が多く性感染症(性病)の中で最も多いとされています。性交後2~3週間で水様透明のおりものの増量がみられ初期では無症状がほとんどです。感染が子宮内膜や卵管などの付属器に波及し骨盤内炎症性疾患を起こしても症状は軽いことが多いです。
症状が進行し不妊症や子宮外妊娠の原因となり、肝臓周囲にまで炎症が波及し肝周囲炎(フィッツ・ヒュー・カーティス症候群)を起こし、激しい上腹部痛を起こすこともあります。
また、妊婦さんで(感染に気づかず妊娠された・妊娠中に感染した)クラミジア感染症の場合、子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)を起こし流産や早産の原因となり、産道感染を起こすと生まれてきた児の新生児結膜炎や新生児肺炎の原因となったりします。
治療としては抗生物質の内服(クラリス・クラリシッドなどを1週間、最近ではジスロマック錠4錠1回)で治療は可能ですが、腹腔内に達した癒着の改善は厳しいです。
また、必ずセックスパートナーに対しての治療が必要です。
最近ではオーラルセックスによる咽頭(のど)感染も多いと言われてます。
淋菌感染症
淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による細菌感染症です。
男性では感染後数日間の潜伏期間を経て尿道炎を起こし、排尿痛と外尿道口から膿(うみ)が出ます。
一方女性では、子宮頚管炎・尿道炎を起こしますが、症状が軽いため放置されやすく下腹痛・発熱を起こし子宮外妊娠の原因になることもあります。
わが国ではクラミジア感染症に次いで多く、また淋菌感染症の20~30%はクラミジア感染症を合併しているといわれています。
診断はおりものの培養で行います。
治療は抗生剤の点滴が主ですが、最近は薬剤に対する耐性菌が増加しており治療に苦慮することがあります。
性器カンジダ症
膣内の滞在菌であるカンジダ属(カンジダアルビカンスなど)の繁殖によって起こる性器の炎症です。
性行為で移行カンジダが繁殖したりすることもありますが(外因性感染)、もともと膣内に滞在していたカンジダが何らかの誘因により繁殖したり(内因性感染)して発症します。
感染症といっても性病とは異なります。
膣の中はもともと酸性に保たれており、酸性の環境に弱い病原体の侵入や増殖を防いでいます。膣の自浄作用といいます。
しかし、糖尿病がある方、ステロイドや免疫抑制剤を服用している方、手術後や風邪をひいて抗生物質を服用している方、妊婦さんは膣内の抵抗力が下がりカンジダが繁殖しやすい状態になります。
症状は白色のヨーグルト様または酒かす状のおりものが多くなり、悪臭を認め外陰部の掻痒感を認めます。
性器ヘルペス
性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(HSV)1型・2型を病原体とする性感染症(性病)です。
初感染時に外陰部に疼痛を伴う水疱を形成し左右対称性の浅い潰瘍性病変を認め、初期に外陰部の違和感ヒリヒリする痛みがあり、これが増悪し排尿困難・歩行困難になり入院を余儀なくされることもあります。
最近はオーラルセックスも普通にあるため、口腔内・口唇にもヘルペスが及ぶケースもあります。
治療は抗ウイルス薬(アシクロビル)の内服および軟膏が一般的で重症なケースでは点滴が必要なこともありますが、大体5~10日間くらいで症状は治まってきます。
ただし、このヘルペスの面倒くさいことは一度局所に感染すると知覚神経を上行性に進んで生涯にわたり神経節に潜伏感染し、身体的および精神的なストレスにより免疫が低下すると再発することがあるのです。体力の維持が大切です。
最近は1年に6回以上再発を繰り返すようなケースでは少量の抗ウイルス薬(アシクロビル)を長期間服用する方法もあります。
膣トリコモナス症
鞭毛虫類に属する原虫トリコモナスバジナリス(Trichomonas Vaginalis)によって引き起こされる炎症性疾患で、膣外陰部を中心に発症する性感染症(STD)です。
性行為以外にも、衣類・便器・入浴(温泉)・内診・検診台などからでも感染する可能性があります。
悪臭のある黄色~淡い灰色で泡沫状のおりものが増加し外陰部に掻痒感を認めるのが特徴です。
男性(セックスパートナー)は感染しても無症状のことが多いですが、そろって治療が必要です。
治療法はメトロニダゾール・チニタゾールの内服か膣錠を用います。
トリコモナス原虫は膣内だけでなく尿路系・直腸などにも生息している可能性が高いため、原則として内服による治療が必要です。
ただし、メトロニダゾールは胎盤を通過し胎児へ移行するので、原則として妊婦への経口投与は避けています。(原則膣錠を用います)
ヒトパピローマウイルス(HPV)
ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)はヒトの皮膚や粘膜にいるごくありふれたウイルスです。
HPVには多くの種類があり、その数は100種類以上と言われています。子宮頚がんの発症に関係するのはそのうちの15種類ほどで発ガン性HPV(ハイリスクタイプHPV)と呼ばれ、ハイリスクタイプには16型・18型・31型・33型・35型・45型・52型・58型があります。世界的に子宮頚がんの患者さんからは16型と18型が高率で検出されており、日本でも16型と18型の検出率は約60%と高率です。16型・18型は感染後に悪性化するスピードが速くがん化しやすい型でもあります。
HPVは誰もが感染する可能性のあるウイルスです。HPVの子宮頚部への感染はほとんどが性交渉によるもので、性交渉により子宮頚部粘膜に微細な傷が生じそこからウイルスが侵入して感染すると考えられています。HPVに感染することは決して特別なことではなく性交経験がある女性なら約80%はハイリスクタイプHPVに一度は感染するとされています。
HPVは性交渉により感染しますが、STD(性感染症)とは概念が異なります。
ハイリスクタイプのHPVに感染してもほとんどの場合は一過性で、ウイルスは自然に排除されます。ウイルスが排除されずに長期間感染が続くと子宮頚部の細胞が次第に異常な形態(異形成)を示すようになります。異形成に変化しても多くは自然に治癒していきますが、ごく一部のケースで自然治癒されずに異形成が進行し数年から数十年かけてがん化していくと考えられます。
ハイリスクタイプのHPV感染から子宮頚がん発症までには長い時間を要するため、この間に子宮頚がん検診をすることによりがんになる前に発見することが可能となります。
子宮頚がんは若年者の発症率が増加していますが、残念ながら若年者の検診率向上にはまだ結びついていません。前述したようにハイリスクタイプのHPV感染が長期間続き子宮頚部の細胞が異形成を示してがん化するまでの期間は数年から数十年とみられています。そのため定期的ながん検診により前がん病変やごく初期のがんの段階で発見されれば子宮が温存でき、その後の妊娠や出産が可能です。子宮頚がんの早期発見のためにも子宮頚がん検診を定期的に受診することが重要なのです。
尖圭コンジローマ
前述HPVで少し説明させていただきましたが、HPV(ヒトパピローマウイルス6型・11型)を病原体とする性感染症(性病)で、外陰部・会陰・子宮頚部・肛門周囲などに先の尖った乳頭状・鶏冠状の疣贅(ゆうぜい・イボ)を生じるもので外陰部の掻痒感や違和感で来院されることが多いです。
妊娠している女性が尖圭コンジローマを発症すると産道感染してしまう可能性があり、生まれた新生児がHPVに感染した場合ごく稀ですがのどにイボができる再発性呼吸器乳頭症(RRP)を発症してしまうことがあります。
この場合、声がかれたり、イボが大きくなることで呼吸困難になり命にかかわることもあります。イボを取り除くため何回も手術を繰り返すこともあります。
膣内にコンジローマが多発している場合や非常に大きなコンジローマでは帝王切開が必要になることがあります。
治療はイミキモドクリーム(ベセルナクリーム)外用薬・電気焼灼法やレーザー蒸散術などですが、視診上治癒しても3ヶ月以内に30%近くが再発するといわれています。
☆膣内・子宮頚部に発生すること、子宮頚部異形成を合併することから、コンジローマにかかったら定期的に子宮がん検診を受けるようにしてください。