人工妊娠中絶薬 (薬による中絶)について
最終月経から49日以内の妊娠初期に利用する妊娠中絶薬があります。この薬剤は海外では許可されておりますが、日本では発売、譲渡は法律で固く禁止されている上に、服用することは危険が伴いますので絶対に服用しないでください。
この薬は、輸入制限がかけられている品でもあり、本来なら海外の業者から輸入も出来ないはずなのですが、実際に個人輸入をしてしまい、トラブルとなり産婦人科や総合病院に搬送されているケースがあるので、そういったトラブルを防止するために、この薬がなぜ日本で使用が禁止されているのかについて、説明を行いたいと思います。
この妊娠中絶薬が日本で許可されない背景のうちの一つとして、「母体保護法」があります。日本ではたとえ自分の身体の中の胎児であっても、母体保護法指定医以外の人が堕胎すると自己堕胎罪にあたり、1年以下の懲役と定められています。したがって、我が国では仮に中絶薬を使う場合でも、母体保護法指定医の指導や経過観察を必ず受けなくてはならないということになる訳ですが、この薬は日本では未認可薬ですので、日本でこの薬を母体保護法指定医のもとで使用することは出来ません。
次に、「薬で中絶が出来るのであれば手術よりも手軽そうに感じられるので、日本でも認可されてもいいのではないか?」そのような疑問に対して、なぜこの薬が日本で未認可であるのかこの薬の安全性における問題点を説明致します。
この薬は、身体に負担の大きい薬で、ほとんどのケースで激しい腹痛と共に2週間近い出血が続きます。大量出血などの副作用が報告されており、時として大量出血のために意識を失い、場合によっては命を落とすことさえもありえます。
薬による中絶は92〜95%の成功率と言われていますが、手術による初期中絶が我が国では100%に近い成功率であるのに比べて、5〜8%の失敗率は非常に高いと判定されます。
また一口に5〜8%の失敗率と言っても、薬による中絶が失敗した時の危険性(大量出血等)は、手術に比べると比較にならないほど高く、失敗に気がついてその時点で救急搬送などされたとしても、(我が国の産科医不足の現状も相まって)必要な処置がすぐに受けられるとは限りません。
つまり、この薬を手に入れたからといって完全な中絶を簡単に一人で行うことができるとは限らないのです。実際に、海外でこの薬が認可されている国でも、医師の厳重な監視のもと(入院等)服薬して経過を観察して、出血が多い場合や服薬による中絶が失敗したと医師が判断する場合にはすぐに手術や吸引といった処置に切り替えることが可能な環境でのみ、使用されている国も多くあります。
また、妊娠判定薬で陽性と出ても、きちんと子宮内に着床しているかどうかはまでは妊娠判定薬ではわかりません。産婦人科で内診して経膣超音波検査により子宮内に胎嚢(胎児の袋)を確認してはじめて、子宮内に着床しているという診断が下せます。(詳しくは妊娠かな?と思ったら のページ をご参照下さい。)
産婦人科を受診せずに、個人で中絶薬を服用した場合で、その女性が正常妊娠でなくて子宮外妊娠(=子宮以外の卵管等に胎児が着床する異常妊娠、全体の2〜3%の割合で起こる)であった場合には、腹腔内出血等を起こして非常に危険です。場合によっては緊急手術をしなければならなくなり、命の危険が伴うケースもありえます。
つまりこの薬を使っての中絶は現在の日本では法律で禁止されている以上に、母体への負担が非常に大きく女性にとって危険であるのです。中絶をお考えの方は、安易な自己輸入は絶対にやめ、必ず母体保護法指定医のもとで中絶手術を受けて下さい。
※医療広告ガイドラインの規制に伴い、未承認薬品の正式名称の記載を差し控えさせて頂きました。
参考:厚生労働省ホームページ
個人輸入される経口妊娠中絶薬(いわゆる経口中絶薬)について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/10/h1025-5.html